成年後見制度とは
我々はそれと意識していると否とを問わず、日々様々な契約をしています。契約社会で平穏に生活するには、契約内容を理解し、それがもたらす結果を予測し、意思表示ができることが大前提です。ところが実際には、認知症や知的障がい・精神障がい等により、必要な判断をする能力を欠く人、あるいは困難を抱える人がいます。成年後見制度は、このような人々が社会の中で安心して暮らせるように、家庭裁判所の監督の下、法的な支援をする制度です。
例えば、ご本人が常に判断能力を欠くようなケースでは(後述する症状の最も重い「後見」類型)、配偶者や親族など一定の範囲の人が後見開始の申立てをすることで、家庭裁判所により後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。成年後見人は家庭裁判所の監督の下、ご本人の身上看護に関する事務(施設への入所契約など)と財産管理に関する事務(預貯金の管理など)について、ご本人に代わって契約などの法律行為を行い、意思決定を支援します。
成年後見制度を利用することで、悪徳商法などの被害からご本人を守り、また高齢者虐待を未然に防ぐことなどが期待できます。
成年後見制度の理念
成年後見制度が目指すところは「本人の最善の利益」です。この目的を果たすため、三つの基本理念を掲げています。
1.ノーマライゼーション
障がいがある人でも、あるいは障がいが生じた人でもそれまでと同じように、家庭や地域社会において、自立したごく不通の生活(ノーマルな生活)を送ることができる社会を目指すとの理念です。
2.自己決定の尊重
可能な限りご本人の意思を尊重しながら支援をするべきとの理念です。そもそも支援を必要とする人々は、その障がいの状況も違うし、置かれた環境も千差万別です。自己決定の尊重と関連して、できることはご本人に任せ、できない部分を支援することも併せて重視されるべきです。
3.身上保護の重視
身上とは生活と療養看護(医療・介護・福祉)のことです。すなわち人間らしい生活が送れるように、生活の質を高めることを重視するべきとの理念です。
成年後見の三類型
成年後見制度では、支援が必要な人をその状態、すなわち判断能力の減退程度によって3つの類型に分けています。
類型 | 判断能力の減退程度 | 備考 |
後見 | 重度 | 本人を「成年被後見人」、その支援者を「成年後見人」といいます。 |
保佐 | 中度 | 本人を「被保佐人」、その支援者を「保佐人」といいます。 |
補助 | 軽度 | 本人を「被補助人」、その支援者を「補助人」といいます。 |
例えば、ご本人が後見類型とされた場合、家庭裁判所により成年後見人が選任されます。成年後見人はご本人(成年被後見人)の療養看護に努め、財産管理及び財産に関する法律行為につき広範な代理権を有します。また、本人がよく理解できずに契約してしまった売買契約などを取り消す取消権があります。一方、保佐や補助の場合、すなわちご本人にある程度の判断能力がある場合、保佐人、補助人には原則として代理権はありません。
後見等開始申立手続きの流れ
- STEP1 ご相談
- まずはお気軽にご相談下さい。後見制度を利用する理由やご本人の状況等をお聞きします。
- STEP2 受託
- 費用のご説明とご依頼の意思を確認させていただきます。その後、着手金と実費預り金をご入金いただきます。
- STEP3 ご本人面談
- ご本人との面談や相談者様からの聞き取りにより、判断能力、健康状態、生活状況などを確認します。
- STEP4 申立類型の決定
- STEP3を元に、医師の診断を踏まえて申立類型(後見・保佐・補助)を決定します。
- STEP5 申立書の作成
- 審判申立書の作成及び、必要書類を収集します。
- STEP6 申立て
- 家庭裁判所に申立て書類を提出します。
- STEP7 調査・審問、鑑定
- 申立人・本人・後見人候補者(候補者がいる場合)それぞれについて、家庭裁判所により面接(調査・審問)があります。
- ご本人の判断能力、健康状態、生活状況、経歴、財産状況などが聴取されます。
- また、後見開始・保佐開始の審判を申立てた場合には、原則としてご本人の判断能力について医師による鑑定が必要とされています(鑑定の実施については家庭裁判所の判断によります)。
- STEP8 審判
- 審理の結果に基づき、家庭裁判所は各後見類型の開始の審判または申立てを却下する旨の審判を下します。前者の場合、合わせて後見人・保佐人・補助人が選任されます。 申立てから審判まで1ヶ月~2ヶ月程度かかります。
- STEP9 審判確定
- 審判の結果が申立人等に送達されて2週間が経過すると、審判が確定し、審判の効力が発生します。
- 合わせて家庭裁判所により後見登記がなされます。
- STEP10 ご清算
- 報酬の残金と実費の精算をお願いします。
任意後見制度について
これまで述べた後見制度は、ご本人の判断能力が減退した後で申立てを行う制度でした(※1)。一方で、任意後見制度と呼ばれる後見制度があります。任意後見制度では、ご本人が契約に必要な判断能力を有しているときに、将来、判断能力が低下したときに備えて、自分の身上看護、財産管理に関する事務の全部又は一部について代理権を与える者を定め、任意に契約を結んでおく形態をとります。後見人と委任事務の範囲を自ら決定するという意味において、自己決定の尊重という成年後見制度の理念にもっとも適う制度であるといえます。
(※1)「任意後見制度」と区別する場合には、「法定後見制度」と呼ばれます。
任意後見の開始までの流れ
- STEP1 ご相談
- まずはご相談下さい。任意後見では、法定後見に比べてお付き合いが長期間に渡ります。したがってご本人と任意後見受任者の相性が極めて重要です。次の契約ステップまでじっくり時間をかけてご検討下さい。
- STEP2 任意後見契約
- 任意後見契約を任意後見受任者と締結します。この契約には家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから契約の効力が発生する旨の特約を付す必要があります。またこの契約は公証人の作成する公正証書による契約でなければなりません。契約後、公証人の嘱託により任意後見契約の登記がなされます。
- STEP3 継続的な見守り
- 任意後見受任者として、ご本人と定期的な面談、電話連絡等により、生活状況の異変、判断能力の低下などがみられないか継続的に確認します。場合によっては任意代理契約(任意後見の効力発生前から財産管理などの事務を委任する契約)を締結し、この段階で財産管理等を委任することも可能です。
- STEP4 任意後見監督人の選任請求
- ご本人の判断能力が低下し、少なくとも後見類型の「補助」に該当する状態になったことを契機として、ご本人や配偶者、任意後見受任者など一定の者により、家庭裁判所に任意後見監督人(※1)の選任請求をします。
- STEP5 任意後見監督人の選任
- 家庭裁判所により任意後見監督人が選任されます。これをもって任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は任意後見人となります。任意後見監督人は裁判所書記官によって登記の嘱託がなされます。
(※1)法定後見制度において、財産が多額であるケースや財産管理において親族間紛争があるようなケースでは、家庭裁判所は後見人等の他、これを監督する後見監督人(または保佐監督人、補助監督人)を選任します。任意後見では家庭裁判所による監督人の選任がその効力発生要件となっており、したがって必ず監督人が付きます。
費用の目安
内容 | 報酬 | 実費等/備考 |
法定後見等開始の審判申立書作成 | 100,000円~ | 印紙代、登記費用、切手代、診断書作成費用などの実費が必要です。 |
任意後見契約 | ご相談下さい。 | |
見守り契約 | 定期的な面談、電話連絡等により、生活状況の異変、判断能力の低下などがみられないか継続的に確認します。 | |
任意代理契約 | 任意後見の効力発生前から財産管理などの事務を委任する契約です。 | |
死後事務委任契約 | 任意後見契約には死後の事務は含まれません。死後の事務については別途契約が必要です。 |
◆報酬は予告なく変更する場合があります。