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遺言のススメ
遺言は人の最期の意志を尊重するための制度です。遺言書を遺すことで、我われは人生の最期においても、自らの意思で自らの財産の処分や分配の方法を決めることができます。
一方で、遺言書はまた遺されたご家族の負担を軽減し、相続トラブルを防止する有効な手段でもあります。遺言書がない場合、民法が定める法定相続人が遺産をいったん共有することになります。そして遺産分割協議を経て各相続人に個々の相続財産が分配されます。この話し合いを契機として、仲の良かった身内の人間関係が壊れてしまう例はけっして少なくありません。またこのリスクは遺産の総額に比例して大きくなるようなものではなく、むしろ実情として、比較的小額の遺産を争うケースが多いようです。さらにこの遺産分割協議、共同相続人の全員が参加しなければ原則として無効です。このことは、場合によっては、遺されたご家族がその存在すら知らなかった人と遺産分割協議をしなければならないことを意味します。
さて、上記の遺産分割協議、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる旨の遺言」をすることで回避できます。この場合、遺言者の死亡のとき直ちに指定した分割方法で指定した相続人に個々の財産が帰属します。つまり、遺言による遺産分割方法の指定は遺産分割協議に優先します。より正確にいえば、この場合には協議による遺産分割はいわば出番がないのです。
遺言を遺すべきケース
次のような方は、ぜひ遺言書の作成をご検討下さい。
・推定相続人がいない場合
ご本人が亡くなると相続人不存在となり、特別縁故者(※1)にあたる者が家庭裁判所から審判を受けるか、共有関係にある財産を除けば、遺産は国庫に帰属、つまり国のものになります。ご自分の意思で、特定の人に財産を譲ったり、特定の事業に寄付をしたいと考えるのであれば、遺言書を作成するべきです。
(※1)特別縁故者とはいわゆる内縁の妻など、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者です。特別縁故者は所定の手続きを踏んで家庭裁判所に財産分与の請求をすることができます。手続きの負担もありますし、そもそも特別縁故者と認められる確実性もありませんので、特定の方に遺産を譲りたいのであれば、やはり遺言書を遺すべきです。
・子のいないご夫婦
この場合、第一順位の法定相続人は「配偶者」と「被相続人(亡くなられた方)のご両親など直系尊属」、ご両親などがいなければ、第二順位として「配偶者」と「被相続人のご兄弟」となります。このような場合に、住んでいる土地や家を配偶者の単独名義にしたいと思っても、遺産分割協議が配偶者にとって重荷となるケースがあります。遺言書の作成をお勧めします。
・複数の子がいるご夫婦
兄弟が良好な関係にない場合はもちろん、遺産分割協議を契機に急速に関係が悪化する例も少なくありません。
・内縁の妻(夫)がいる場合
民法は法律上の婚姻関係にない内縁の妻(夫)に相続権を認めていません。したがって内縁の妻(夫)に財産を譲りたいと考えるなら遺言書を遺すべきです。その他、法定相続人以外の方に財産を譲りたい場合も同様です。
また、これとは逆に(法律上の婚姻関係にある)配偶者と事実上離婚状態にあるような場合、配偶者に財産を譲りたくないケースも考えられます。この場合も遺言書を作成するべきです。
・複数回結婚している場合
前婚の配偶者はもちろん相続人ではありませんが、前婚の子は法定相続人です。なお、現在の配偶者との間の子と前婚の配偶者との間の子で法定相続分に差はありません。
このようなケースに限らず、相続関係が複雑になるケースでは、遺産分割協議に困難を伴うことが少なくありません。
・後継者への事業承継
後継者が安定した経営を行うためには、自社株(または持分)と事業用資産を後継者へ集中的に承継させる必要があります。これに失敗すると経営が分裂し、いわゆるお家騒動に発展しかねません。遺言書で上記の資産を後継者に集中させ、合わせて兄弟など他の相続人に対して十分な配慮を示すことがとても大切です。
遺言は厳格な様式行為です!
遺言は厳格な様式行為であるといわれます。つまり民法に定められた方式に則った遺言書でなければ、少なくと法的には効果が認められないということです。遺言はそれを遺した人の死後に執行されます。その時になってご本人の真意を確認することは残念ながら不可能です。また遺言の性格上、他の人に内容が書き換えられてしまうのを防止する必要もあります。したがって厳格な様式が要求されるのはやむを得ないことです。さらに遺言の内容が曖昧であったり、遺産に含まれる不動産の特定が不十分であるなど記載が適切でない場合、そのことが争いの火種となってしまいます。また後述する自筆証書遺言の場合、記載内容の安易な訂正も要注意です。訂正の方式も厳格に定められており、これに違背する訂正は効力を生じません。
せっかく遺言書を遺しても、遺言の効力自体が争われて訴訟に発展するのでは意味がありません。遺言については何らかの形で専門家のチェックを受けることをお勧めします。
遺言の形式
さて、緊急時を除けば、遺言は自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかの形式でなされるのが一般的です。それぞれの特徴をまとめてみました。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
方式 | 遺言の全文、日付及び氏名を自書し、押印する。 | ①2人以上の証人立会いのもと、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する。 ③公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧する。 ④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印する。 ⑤公証人が、上記要件に従って作成したことを付記して署名押印する。 |
長所 | 誰にも知られずに作成・修正ができる。 費用がかからない。 |
公証人が関与するため、遺言の有効性が争われるリスクが比較的小さい。 遺言書の原本が公証役場に保管されるため、紛失や改変の心配がない。 検認(※1)手続きが不要である。 |
短所 | 形式不備や内容の真否など、有効性が争われるリスクが比較的大きい。 保管方法をよく検討しないと、死後に発見されなかったり、あるいはまた親族による偽造や隠匿などのリスクがある。 遺言執行には検認(※1)を要する。 |
証人が必要であること。 証人には遺言内容が知られてしまうこと。 費用がかかること。 |
(※1)検認とは相続開始後、真っ先に遺言書の現状を保全する、つまり遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです(遺言が遺言者の真意に基づくかといった遺言の有効性そのものを判断するものではありません)。遺言書の保管者または発見者は、相続開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所にこれを提出して検認を請求しなければなりません。申し立てを怠った場合には過料の制裁も規定されています。
さて、上記を踏まえて、当事務所では原則として公正証書遺言をお勧めしています。たしかに自筆証書遺言の短所は専門家が関与することにより大幅に軽減できます。さらに頻繁に書き換える予定があるようなケースであれば、自筆証書遺言の費用面でのメリットは魅力的です。しかし遺言者が高齢で遺言能力に疑義が生じうるケースや、遺言内容が明らかに遺留分(※2)を侵害するケースなど、相続開始後速やかに遺言執行に着手できる公正証書遺言の方がはるかにご家族の負担を小さくできます。
(※2)人が亡くなった場合、その人(被相続人)に経済的に依存していた人たち(一定の範囲の相続人)が遺産を分けてもらえないとすると、おそらくその相続人は経済的に行き詰ってしまいます。また、相続人はもとより被相続人に(少なくとも法的に)近しい人ばかりですので、故人の財産形成に少なからず貢献してきたものと考えられます。このような事情を考慮して、民法は被相続人が自分の意思で処分できる財産に一定の制限を設けています。裏を返せば、相続人には一定の割合の遺産を確保する権利が保障されているのです。この割合のことを遺留分といいます。遺留分を侵害する遺言を遺すことも可能です。ただしこの場合、侵害された相続人(遺留分権利者)は自らの遺留分につき取り戻す権利があります。余談ですが、遺留分を侵害する遺言を遺す場合には、被相続人自身の言葉で「なぜそのような遺言をすることになったのか」を遺言に付記しておくことが紛争の防止に有効です。
遺言書作成支援の流れ
- STEP1 ご相談
- 状況やご要望を伺い、最適な遺言方式(公正証書遺言、自筆証書遺言)を決定します。
- STEP2 受託
- 費用のご説明とご依頼の意思を確認させていただきます。その後、着手金と実費預り金をご入金下さい。
- STEP3 資料の収集
- 相続関係及び相続財産につき、資料(戸籍、登記簿謄本、固定資産評価証明書など)を収集します。
- STEP4 財産目録等の作成
- 相続関係説明図、財産目録を作成します。
- STEP5 内容の打合せ
- 相続関係説明図と財産目録を元に、遺言内容についてご意思を伺います。
- STEP6 遺言書案作成
- ご意向に従って遺言書の原案を作成します。
- STEP7 内容の確認
- 遺言書案の内容をご確認いただき、適宜、修正等行います。
- STEP8 遺言書作成
- 各方式に従い実際に遺言書を形にします。
- STEP9 ご清算
- 残金と実費の精算をお願いします。
費用の目安
内容 | 報酬(税別) | 実費 |
自筆証書遺言作成支援 | 40,000円~ | ・戸籍、固定資産評価証明書、登記事項証明書など |
公正証書遺言作成支援 | 60,000円~ | ・戸籍、固定資産評価証明書、登記事項証明書など ・公証人手数料(遺言の目的財産の価額、財産をもらう人の人数による) |
証人立会日当 | 証人1人につき10,000円 | |
遺言執行 | ご相談下さい |
(※)外出が困難である場合など、出張対応も致します。お気軽にご相談下さい。
◆報酬は予告なく変更する場合があります。